鎌倉と安房国、清澄寺と虚空蔵信仰 4-1

4 清澄寺の宗派の変遷をめぐって

(1) 安房国の宗派

少年日蓮が学んだ清澄寺は梵鐘の鐘銘に、「房州千光山清澄寺者慈覚大師草創」と慈覚大師円仁による再興を伝え、山川智応氏の「日蓮聖人研究・1巻」によれば、「聖人滅後百十一年の明徳三年(1392)当時には、清澄寺が正しく此の弘賢法印を寺主別当として、真言宗醍醐三宝院流親快方(或いは地蔵院流)の法脈に属していた事実は、頗る確実である」(P98)と、14世紀末には真言密教の道場となっていた、としている。その後、昭和24(1949)、日蓮宗に改宗する前の宗派は真言宗智山派となっていた。

                        清澄寺 梵鐘 鐘銘
                        清澄寺 梵鐘 鐘銘

 

 

清澄寺と同じ安房国の養老寺、那古寺、小網寺は真言宗智山派で、安房一帯には智山派の寺院が多いようだ。旧安房国とされる鋸南町、館山市、鴨川市、南房総市内の主要寺院について、宗派別に列挙してみよう。

< 鋸南町 >

               妙本寺
               妙本寺

真言宗智山派

持福寺、大乗院、圓照院、往生寺、満藏寺、理性院、密蔵院、歓喜院、極楽寺等。

 

浄土宗

浄蓮寺、別願院、遺水寺等。

 

浄土真宗本願寺派

最誓寺。

 

真宗大谷派

福蔵寺。

 

臨済宗建長寺派

天寧寺、大智庵、法福寺、秀東寺等。

 

臨済宗円覚寺派

正法院。

 

曹洞宗

長林寺、在林寺、日本寺、光明寺、信福寺、昌竜寺、崇徳院等。

 

日蓮宗

久円寺、西之寺、下之寺、山本寺、妙典寺、妙顕寺、大行寺等。

 

妙本寺

 

                          館山市 藤原
                          館山市 藤原

< 館山市 >

              那古寺 多宝塔
              那古寺 多宝塔

真言宗智山派

圓光寺、善榮寺、長泉寺、観乗院、長福寺、秀満院、金蓮院、西光寺、金剛寺、善淨寺、國分寺、延命院、千葉院、寶藏院、豊前寺、福樂寺、寶幢院、金乗院、瀧音院、藥王院、総持院、自性院、福藏寺、持明院、観音院、長勝寺、大福寺、積藏院、遍智院、千祥寺、舎那院、遍照院、寶樹院、寶積院、來壽院、福壽院、藤榮寺、観音寺、安養寺、光明院、千灯院、高性寺、覺性院、塩藏寺、

不動院遍照密寺、成願寺、千龍寺。

 

            養老寺
            養老寺

高野山真言宗

妙音院。

 

浄土宗

安楽寺、三福寺、浄閑寺、長泉寺、西行寺、

蓮壽院、大円寺、大嚴院、金台寺、海雲寺。

 

浄土真宗本願寺派

宗真寺。

 

 

 

 

臨済宗建長寺派

玉竜院、釈迦寺。

 

臨済宗円覚寺派

智秀寺。

 

曹洞宗

源慶院、真浄院、願忠寺、東伝寺、福生寺、泉福寺、西方寺、竜淵寺、宝安寺、泉慶寺、慈恩院、真楽院、長光寺、智恩寺、紫雲寺、蓮蔵寺、西光寺、長勢院、大鑑院、春光寺、端竜院、東光院、竜樹院。

 

日蓮宗

蓮幸寺、栄洗寺、妙大寺、本蓮寺、法蓮寺、妙長寺、法性寺。

 

                         洲崎灯台より
                         洲崎灯台より

< 南房総市 >

天台宗

安楽寺、来福寺、高雲寺、迎接寺、

善性寺、慈眼寺、普顕寺、石堂寺、

常円寺、医王寺、西光寺、正運寺。

 

真言宗智山派

吉祥院、正塋寺、海福寺、紫雲寺、

長福寺、東福院、千光寺、観乗院、

石戸寺、法界寺、寶泉寺、金剛院、

慈眼寺、積藏院、能藏院、永福寺、

金仙寺、圓明院、正福寺、照明院、

長性寺、盛徳寺、高徳院、地蔵院、

小松寺、大滝寺、東漸寺、大聖院、

住吉寺、東仙寺、観音寺、海雲寺、圓正寺、金剛院、観養院、徳藏院、圓藏院、圓乗院、西養寺、常光寺、眞勝寺、海光寺、金光寺、正覚寺、成願寺、圓照寺、壽樂寺、普門院、福満寺、龍泉院、勝蔵寺、正壽院、福性院、圓鏡寺、青龍寺、大聖寺、眞野寺、東光寺、大徳院、金福寺、智恩院、寶藏院、藥王寺、智光寺、長福寺、勧修院、正覺院、蓮花院、極樂寺、宝珠院、東福院、宝積院、普門院、長泉寺、建福寺、眞言院、西福院、寶樹院、沼蓮寺、寶性院、威徳院。

 

浄土宗

善性寺、慶崇院、西方寺、長泉寺、護国寺、蓮台寺、量寿院、大勝院、正林寺、無量院、心行寺。

 

真宗大谷派

勝善寺。

 

臨済宗円覚寺派

栄福寺、宝鏡寺、興禅寺、常禅寺、長福寺、万福寺、満蔵寺、海禅寺。

 

臨済宗建長寺派

永興寺、慈雲寺、西光寺、自性院、海雲寺。

 

曹洞宗

福寿院、満願寺、杖珠院、雲竜寺、安勝院、光厳寺、善導寺、高照寺、福聚院、泉竜寺、瑞岩寺、天徳寺、智蔵寺、竜喜寺、延命寺、法慶院、長香寺。

 

日蓮宗

蓮重寺、顕本寺、法華寺、全昌寺、妙蓮寺、妙福寺、日宣寺、日運寺、妙達寺、善道寺、正文寺、普門寺。

 

日本山妙法寺大僧伽

古川小僧伽。

                           洲崎灯台より
                           洲崎灯台より

< 鴨川市 >

               西蓮寺
               西蓮寺

天台宗

萬福寺、西蓮寺、方広寺。

 

真言宗智山派

海福寺、自性院、薬王院、金剛院、観音寺、神藏寺、常秀院、小原寺、慈恩寺、東勝寺、道種院、小澤寺、勝蔵院、永泉院、龍性院、薬王院、照善寺、昭和院、蓮花院、淨照寺、勝福寺、成就院、瀧山寺、寶國寺、金乗院、林淨院、善能院、真福寺、圓明院、西徳寺、三嶋寺、常福院、悉地院、長福院、延命院、満光院、安養寺、花藏院。

 

浄土宗

心厳寺、阿弥陀寺

 

 

浄土真宗本願寺派

善覚寺、善竜寺、福田寺、本覚寺。

             永明寺
             永明寺

曹洞宗

永泉寺、泉福寺、東福寺、宝泉寺、長安寺、常応寺、長福寺、林秀院、長泉院、永明寺、竜泉寺、宝光寺、正因寺、宝昌院、宝寿寺、地済院、竜江寺、真福寺、地蔵院、西福寺、金光寺、長興院、古泉院、宝寿院、東善寺、慈願寺、神宮寺、西禅寺、大徳寺、長泉寺、天沢寺、安国寺。

 

臨済宗妙心寺派

見星院

              花房 蓮華寺
              花房 蓮華寺

日蓮宗

妙蓮寺、誕生寺、清澄寺、日澄寺、日蓮寺、高生寺、多聞寺、蓮行寺、妙昌寺、釈迦寺、鏡忍寺、掛松寺、正法寺、妙満寺、長泉寺。

 

蓮生寺。

 

遠本寺

 

日本山妙法寺大僧伽

天津清澄中僧伽、天津小僧伽。

 

以上、安房国の寺院を列挙したのだが、一見して真言宗智山派寺院の多さが他を圧倒していることが分かる。次に多いのが曹洞宗で、これは、戦国時代に安房国を領し、房総半島を勢力圏とした里見氏との関係によるものだろうか。安房里見氏の初代国主とされる里見義通の父・里見義実の菩提寺が南房総市白浜町の曹洞宗・杖珠院(じょうじゅいん)で、ここに里見家三代の墓石がある。杖珠院は文安元年(1444) 、里見義実の創建と伝える。館山市古茂口の曹洞宗・福生寺には、里見義通の子・里見義豊の正室である一渓院の墓石がある。館山市上真倉の曹洞宗・慈恩院には、里見義康の墓所がある。慈恩院は、元里見義康の持仏堂と伝える。里見義弘の菩提寺が館山市畑の曹洞宗・瑞龍院とされる。館山市安布里の曹洞宗・源慶院には、里見義弘の娘・佐与姫の墓所がある。

 

安房国における真言宗智山派の勢力拡大は、いつ頃なされたものだろうか。千葉県内の真言宗智山派の代表的寺院といえば、当時としては「下総国」になるが、智山派大本山の成田山新勝寺だろう。

 

天慶2(939)、平将門の乱平定のため、朱雀天皇の命により東国へ派遣された真言僧・寛朝(延喜16年・916~長徳4年・998)が空海作とされる不動明王を奉じて天慶3(940)、海路、上総国尾垂ケ浜に上陸。下総国公津ケ原で乱平定を祈願、護摩不動を修し成満。そこに堂舎が建立されたことを淵源としているようだ。寛朝は後に仁和寺別当、東寺長者に任じられている。

この新勝寺が一躍有名寺院となったのが江戸時代の出開帳で、歌舞伎役者・市川団十郎の成田不動信仰、その芝居などによって不動信仰が庶民の間に広まり、成田参詣が盛んとなった。智山派・総本山の智積院は、興教大師覚鑁を源とする根来山塔頭の学頭寺院であったものが、慶長6(1601)、徳川家康の寄進により京都・東山の地に再興されたと伝える。

 

清澄寺においても真言僧を通しての、徳川将軍家との関わりがあったようだ。次項で清澄寺の開創より真言宗智山派に到る変遷を概観してみよう。

 

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